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評価:
中室 牧子
ディスカヴァー・トゥエンティワン
¥ 1,728
(2015-06-18)
Amazonランキング:
70位
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表紙の帯には、子育て中の親なら誰でも悩んでいるような疑問が列挙してあります。
・ゲームは子どもに悪影響?
・教育にはいつ投資すべき?
・ご褒美で釣るのっていけない?
ところで、これまでにも、こういった疑問に答える本はたくさんありました。テレビなどでも取り上げられ、教育評論家を名乗る人たちがああでもないこうでもないの論争を繰り広げて来ました。そういった議論とこの本との決定的な違いは、統計を使っている点です。つまりエビデンス(科学的根拠)があるのです。evidenceは「証拠、物証」という意味です。刑事さんも使いますが、医学や心理学の分野でもよく使われる言葉です。
最近テレビで次のような対照実験をよく見かけます。「10人の人を集めて2つのグループに分け、片方には○○ダイエットを試してもらいました。もう一方は特に何もしませんでした。その結果、2週間後には何と…」。学術的には、こういった実験結果を統計的に処理し、「何%の人に効果があった」と結論を出します。これは科学的な証拠ですから、
エビデンスがあることになります。
では、先ほどの3つの疑問について、内容の一部をご紹介します。
ゲームは子どもに悪影響?
まず最初は、ゲームについて。一般的には、「ゲームはダメ」ということになっています。小学校では、テレビやゲームに費やした時間を毎日カードに記入させたりしています。
でも、むやみに禁止することが良いことなのか、どのくらいまでなら有害じゃないのか、1時間ゲームを禁止したら1時間勉強をしてくれるものなのか、こんなに言うことを聞かないのはうちの子だけなのか、こんなことで悩んでいる親は私だけなのか…と、疑問は尽きません。
本書で紹介されている調査によると、「1日2時間を超えると、子どもの発達や学習時間への負の影響が飛躍的に大きくなる(p57)」のですが、1日1時間程度なら、全くテレビを観ない・ゲームをしないのと同じなのだそうです。
さらに「1日1時間程度のテレビ視聴やゲームをやめさせたとしても、
男子については最大1.86分、女子については最大2.70分、学習時間が増加するにすぎない(p56)」ことが分かっています。
これらのことを踏まえますと、気分転換に少しくらいはテレビやゲームも良いんじゃない?ということになりそうです。もちろん、「少しくらい」とは何分なのかはそれぞれの事情に合わせて親子で話し合っていただかなければいけませんが。
教育にはいつ投資すべきか?
2つめは「子どもの教育にはいつお金をかけるのがいいか?」という疑問です。ここは経済学者らしく、教育にかかる費用を「投資」、将来稼ぐ子どもの収入を「収益」と捉え、横軸に投資した時の子どもの年齢、縦軸に収益率を設定したグラフが掲載されています(p76)。
これはアメリカで行われた調査ですから、日本の場合とはちょっとだけ違うかもしれません。でも、「子どもが小さいうちに行うべき(p77)」で「もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)(p76)」というのは国が違っても同じではないでしょうか?
ご褒美で釣るのはいけない?
3つめはご褒美について。「勉強したら○○をあげる」というやり方はどうなのでしょう。
「あなたが将来幸せになるように、今のうちに勉強しなさい」という説明は、保護者の皆さんも子どもの頃に一度は言われているかと思います。そして親となった今、自分の子供にも言ったことがあるかもしれません。
子どものうちにたくさん勉強しておけば将来の収入が増えることは、多くの研究で分かっています。エビデンスのあることなのです。ですから、「将来の収入」をご褒美と考えて、勉強してくれても良さそうなものです。
ところが、人間は後伸ばしされたご褒美には魅力を感じないことが分かっています。「今おやつ1個もらうのと、少し待ってから2個のおやつをもらうのとどっちがいい?」という実験で、「今おやつ1個」を選ぶ人が多かったそうです。何と「将来のおやつ2個」を選ぶのはチンパンジーの方が多かったとのこと。
どうやら、目の前にニンジンをぶら下げざるを得ないようです。ニンジンに相当するご褒美は何がいいのでしょうか?いろんな意見があるとは思いますが、一番わかりやすい「お金」でも特に問題は無いのではないかというのが著者の考えです。
ご褒美の条件設定ですが、「テストでよい点を取ればご褒美」と「本を一冊読んだらご褒美」では、どちらが学力向上につながるでしょうか。実験結果は後者に軍配が上がりました(p34)。
「本を一冊読んだらご褒美」では、子どもは何をすべきかが明確です。ところが「テストでよい点を取ればご褒美」の場合は、具体的にどんな勉強をすれば結果を出せるかを考えるところから始めなければいけません。また、テストの点数が出るまでご褒美はもらえないわけで、先延ばしになる点もご褒美の魅力を減退させてしまうのかもしれません。
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公文式との関連で見てみますと、幼児教育が経済性(費用対効果)で測っても有効であることは、ベビーくもん等幼児教育に力を入れている公文式の考え方に合致するものです。
ご褒美については「すいせん図書を一冊読んだらご褒美」「教材を100枚やったらご褒美」といったように、公文式の学習に容易に活用できそうです。
本書では、ここで紹介した他にも「ほめ育ての是非」「効果的なほめ方」「友達の影響」「少人数学級の効果」など、いろいろな内容に触れています。